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免疫療法のトピックス(1) [免疫療法]

これまでの免疫療法は効果に疑問符が付く程度のものでしたが、2012年にブレークスルーが起こり、今や肺癌治療の4本目の柱となりました。

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ちなみに、残りの3本の柱は「手術」「放射線療法」「化学療法」です。

そこで免疫療法のトピックスをご紹介します。

この10年で免疫チェックポイント阻害薬の開発はマウスからヒトへ移行し、臨床応用される時代に至りました。その代表薬が抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体です。イピリムマブを代表薬とする抗CTLA-4抗体はT細胞表面に存在するCTLA-4を阻害することにより抗腫瘍免疫応答を増強します。一方で、抗PD-1抗体は活性化T細胞表面に存在するPD-1を、抗PD-L1抗体は腫瘍細胞表面に存在するPD-L1を阻害することにより抗腫瘍免疫応答を増強し抗腫瘍効果を示します。これらの免疫チェックポイント阻害薬は、治療開始後に一度増悪してから効果を示す症例もみられます。つまり治療開始後、腫瘍量は増加を示した後に縮小する症例もみられるのが免疫チェックポイント阻害薬の特徴とも言えます。臨床活性のパターンは通常の化学療法と同様に腫瘍径が経時的に縮小するものもあれば、新規病変が出現したとしてもその後縮小を認めるもの、増大してから(PD判定後に)腫瘍径の縮小を認めるものもあります(下図)。

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そのため、専門家らによるワークショップが開催され、そこでこれらの特徴を生かし、免疫チェックポイント阻害薬のリスクベネフィットを考慮した新たな抗腫瘍効果判定方法の確立が議論されました。具体的には、PD(増悪=肺癌が進行したことを指す)判定するために確定(Confirmation)を要することや、臨床的には有意な所見ではない新規の微小病変の出現は許容することなどが挙げられます。その結果、Immune-related Response Criteria(irRC)が新たに提唱されました。(下図)

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Modified WHO(mWHO) Criteriaと比較して、新病変が出現しても腫瘍径の総和が50%以下となればPRと判定することやPDと判定するには4週間以上の間隔で腫瘍径の総和が25%以上増大していることを確認(Confirmation)しなければならないことが効果判定基準として採用されました。これらの基準を免疫チェックポイント阻害薬の臨床効果のパターンに当てはめると、約10%の症例はmWHO効果判定基準でPDと判断された後も治療を継続することで抗腫瘍効果を認めることが明らかとなっています。

続きは次回のブログで。







ステロイド投与による副腎機能不全のリスク [ステロイド]

肺がんの患者に限らず、呼吸器疾患に罹患(りかん)するとステロイドを使用する事があります。長期間にわたりステロイドを使用する場合、急な中断は副腎機能不全(二次性副腎機能不全)のリスクとなります。

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副腎は上記の図のように腎臓の上にのっかっているように存在する小さな臓器です。
小さい臓器ではありますが、ステロイドホルモンを分泌するとても大切な臓器です。

経口または注射等で体外からステロイドを投与すると、副腎はステロイドの分泌をやめてしまいます。つまり、副腎は仕事をしなくてもいいのだと理解し、ホルモンの分泌をやめてしまいます。そのため、ステロイドを長期にわたり投与する場合には少しずつ減量して中止する(漸減中止)必要があります。ステロイドを使用している人が、すこしずつ減量されて中止されるのはこのような理由からです。

ステロイドの漸減中止が必要なおおまかな基準は下記のとおりです。

【ステロイドの漸減中止が必要な基準(目安)】

・プレドニン(PSL)換算で20㎎/日を3週間以上投与されている

・夕食後または眠前に内服するプレドニンが5mg以上で数週間以上投与されている

・クッシング徴候(満月様顔貌など)を認める


上記のような場合には二次性の副腎機能不全を発症している恐れがありますので、ステロイドは漸減中止が望ましいと考えられています。



漸減される場合のスピードは、

・初回投与量がプレドニン40mg以上の場合には1~2週ごとに5~10㎎ずつ減量

・プレドニン20~40mg/日の場合は1~2週ごとに5mgずつ減量

・プレドニン10~20㎎/日の場合は2~3週ごとに2.5㎎ずつ減量

・プレドニン5~10㎎/日の場合は4週ごとに1mgずつ減量

・プレドニン5mg/日未満の場合は2~4週ごとに0.5㎎ずつ減量


上記がひとつの目安となりますが、実際にはもっとおおまかな漸減中止が行われています。

ステロイドの漸減中止について記載しましたが、ステロイドを投与したとしても、
「3週間未満のステロイド投与やプレドニン5mg以下の投与であれば、急な投与中止でも副腎機能不全のリスクは低い」
と言えます。


タルセバとアバスチンの併用療法(JO25567試験) [EGFR遺伝子変異陽性肺癌]

2014年8月のLancet OncologyにJO25567試験が掲載されました。
この試験は、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんの一次治療におけるエルロチニブ(商品名:タルセバ)とベバシズマブ(商品名:アバスチン)の併用療法とエルロチニブの単剤療法の有効性および安全性について比較検討することを目的として行われた第二相ランダム化試験です。

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当初、この試験はそれほど注目されていませんでした。タルセバにアバスチンを上乗せしたくらいでそんなに効果に差が出るだろうと思っていない人が多かったからです。
しかし、上記のように、タルセバにアバスチンを上乗せすることにより6か月もの無増悪生存期間の延長が示されました。

スライド2.JPG

奏効率は上記のように大差ありません。

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OSの解析は行われていませんが、曲線をみる限りは差が出そうな勢いです。

この結果を単純にみてしまうと、タルセバ+アバスチンは標準治療として日常診療に受け入れられそうですが、あくまでこの試験は第二相ランダム化試験ですので、エビデンスレベルは低いと判断します。つまり、この試験1本の結果でタルセバ+アバスチン療法は素晴らしいという結論は時期尚早だと言えます。
 実は、欧米でも同様の試験が行われており、当初はその試験の結果も合わせて結論を出す予定でしたが、症例集積が進まないこともあり最終的な結論には時間がかかりそうなため、日本で上記試験の検証が行われそうです。

最終的な結論は今後行われる上記を検証する第三相試験の結果待ちとなりそうです。






息切れのスケール(MRCスコア、Hugh-Jones分類) [肺癌に関わるトピックス]

肺がんになると「息切れ」を呈することがあります。 その息切れの程度を評価するスケールとしてMRC息切れスケール(Medical Research Council dyspnea scale)Hugh-Jones(ヒュージョーンズ)分類が用いられています。

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【MRC息切れスケール】
Grade 0:息切れを感じない
Grage 1:強い労作で息切れを感じる
Grage 2:平地を急ぎ足で移動する。または穏やかな坂を歩いて登る時に息切れを感じる
Grade 3:平地歩行でも同年齢の人より歩くのが遅い。または自分のペースで平地歩行していても息継ぎのために休む。
Grade 4:約90メートル(100ヤード)歩行したあと息継ぎのために休む。または数分間歩行したあと息継ぎのために休む。
Grade 5:息切れがひどくて外出できない。または衣装の着脱でも息切れがする。
【Hugh-Jones分類】

I:同年齢の健康者と同様の労作ができ、歩行、階段昇降も健康者なみにできる
II:同年齢の健康者と同様に歩行できるが、坂道・階段は健康者並には出来ない
III:平地でも健康者並に歩けないが、自分のペースなら1マイル(1.6km)以上歩ける
IV:休み休みでなければ50m以上歩けない
V:会話・着替えにも息切れがする。息切れの為外出できない。

 以前は、Hugh-Jones分類を用いて息切れの程度を評価されていましたが、現在ではMRC息切れスケールを用いることが多くなっています。  ちなみに、日本ではHugh-Jones分類として知られていますが、実際は彼の上司であるFletcherが考案した息切れスケールです。 上記の息切れのスケールの他に、海外ではBaseline/Trannsition Dyspnea Index(BDI/TDI)や修正Borg Scaleも用いられています。



Baseline/Trannsition Dyspnea Index(BDI/TDI)
Grade4:息切れを感じることなく普通の活動ができる(No impairment)
Grade3:息切れを感じて若干活動能力が落ちてしまう(Slight impairment)
Grade2:息切れを感じて普通の活動が出来ず、作業を変えたり、あきらめることがある(Moderate impairment)
Grade1:息切れを感じて普通の作業ができない(Severe impairment)
Grade0:息切れを感じて全ての作業ができない(Very severe impairment)


修正Borgスケール
0:息切れなし(Nothing at all)
0.5:極々(ごくごく)わずかに息切れあり(Very, very slight)
1:極わずかに息切れあり(Very slight)
2:わずかに息切れあり(Slight)
3:中等度の息切れあり(Moderate)
4:いくらか強い息切れあり(somewhat severe)
5:強い息切れあり(Severe)
6
7:とても強い息切れあり(Very severe)
8
9
10:とてもとても強い息切れあり(Very, very severe)

これらのスケールを用いる際に重要なことは、これらの指標は息切れの程度を評価している訳ではなく、息切れのせいでどれだけ、運動強度が落ちているのか、日常生活に支障を来たしているのかを評価しているということです。

間質性肺炎合併肺がんに対する化学療法、放射線治療のリスク [間質性肺炎合併肺癌]

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「間質性肺炎」を有する患者の場合、肺癌の治療には通常よりも高いリスクが伴います。
そのリスクは「間質性肺炎の急性増悪」です。

 間質性肺炎の急性増悪とは、肺がんに対する化学療法や放射線治療などが刺激となり、間質性肺炎が急激に悪化し、低酸素血症などの呼吸不全を引き起こす病態を言います。
そのため、間質性肺炎を有する患者が肺がんを発症した場合、手術、化学療法、放射線治療、いずれの治療を行うにしても通常の患者よりもリスクが高い治療となることを理解しなくてはなりません。

そのリスクを具体的に示します。

1.間質性肺炎合併肺がんに対する「化学療法」
 まずは、各抗がん剤の間質性肺炎合併例に対する適応は下記のとおりです。

投与禁忌(投与不可):CPT-11、GEM、AMR
慎重投与(慎重な注意で投与可):PTX、nab-PTX、DTX、S-1、VNR、ノギテカン、EGFR-TKI
投与可:CDDP※、CBDCA、VP-16
※CDDPはVNRおよびVP-16との併用で致死的肺障害の報告があるので注意を要する。

 上記の適応に加えて、残存している正常肺面積や線維化の程度は肺障害の発症に関与することが報告されれています(Kudoh S et al. Am J Respir Crit Care Med 177:1348-57, 2008)。特に、①正常肺野面積が50%未満、②55歳以上、③PS2以上、④喫煙歴あり、⑤心疾患を有する症例で、化学療法に伴う間質性肺炎の悪化のリスクはさらに高まるため、化学療法の適応は慎重に検討されるべきです。

2.間質性肺炎合併肺がんに対する「放射線療法」
 間質性肺炎に対する放射線療法は放射線肺炎および間質性肺炎の急性増悪のリスクが高いため、原則禁忌となっています。発症頻度は30~40%程度とリスクが高いことが明らかとなっていますが、いずれも少数例での報告にとどまります。

 最近では陽子線や重粒子線などのピンポイント照射も可能となっており、上記の危険性を減らすことが期待されています。しかし、ピンポイント照射を行っても放射線肺炎および間質性肺炎の急性増悪が生じた報告もありますので、放射線療法はあくまでリスクがベネフィットを明らかに上回る時に検討されるべきオプションと考えたほうがよさそうです。

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進展型小細胞肺癌に対する予防的全脳照射(PCI) [小細胞癌]

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肺癌診療ガイドライン2014では、限局型小細胞肺癌に対する予防的全脳照射(PCI)(根治を目的とした放射線化学療法が著効した症例に対する脳転移予防を目的とした放射線治療)により、3年生存率を約5%(15%→21%)上乗せすることができることから標準治療として推奨しています(グレードA)。

上記はあくまでも「限局型」の小細胞肺癌が対象です。

一方で、2007年に限局型だけでなく、進展型小細胞肺癌に対する初期治療で著効した症例に対する予防的全脳照射でも生存期間を延長したとの論文が欧州から発表されました(N Engl J Med 357:664-672)。このエビデンスをもとに海外では進展型小細胞肺癌に対する初回治療で著効した症例には予防的全脳照射を行うことが推奨されています。

そこで、日本でも進展型小細胞肺癌に対する予防的全脳照射の有効性を検証すべく第三相ランダム化比較試験が行われ、その結果が昨年のASCOで発表されました。

その結果が上記の図です。
残念ながら、進展型小細胞肺癌に対する予防的全脳照射の有効性は示されませんでした。

この試験の結果から日本ではこれまで通り、限局型小細胞肺癌のみがPCIの対象となります。
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ROS1肺癌に対するクリゾチニブ [肺癌の新治療]

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Crizotinib Therapy for Advanced Lung Adenocarcinoma and a ROS1 Rearrangement: Results From the EUROS1 Cohort. Julien Mazières et al. JCO Mar 20, 2015:992-999; published online on February 9, 2015; 10.1200/JCO.2014.58.3302.

上の図はROS1陽性肺癌の組織像です。ROS1肺癌は肺腺癌の中でもALK陽性肺癌よりも希少な肺癌です。がん研究会がん研究所の竹内先生により発見されました。

RET, ROS1 and ALK fusions in lung cancer. Kengo Takeuchi et al. Nature Medicine 18, 378–381 (2012) doi:10.1038/nm.2658


欧州で行われたROS1再構成陽性肺癌に対するCrizotinib(クリゾチニブ)の臨床試験の結果がでました。

対象:ROS1再構成陽性肺癌、IV期(進行癌)
症例数:32例
患者背景:年齢中央値50.5歳、女性64.5%、非喫煙者67.7%

結果:奏効率80%、病勢コントロール率86.7%、無増悪生存期間(PFS)中央値9.1か月、1年無増悪生存率44%

以上の結果から、ROS1陽性肺癌に対するクリゾチニブは標準治療となる日が近いですね。

ちなみに、このような希少肺癌のスクリーニングプロジェクトをがんセンターが中心となって行っています。日本中に参加施設がありますので、興味のある方は下記をご参照ください。

http://epoc.ncc.go.jp/clinicaltrial/scrum_index.php

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傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurologic syndrome)  [肺癌に関わるトピックス]

傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurologic syndrome)は肺がんでは組織型が小細胞癌の場合にみられることがある疾患です。自己免疫学的機序により生じる多様な神経症候群で、神経症状を契機に肺がんと診断されることもあります。

この神経症状は厄介なもので、肺がんの治療を行っても改善しないこともあります。

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肺がんなどの癌に罹患すると、発症初期から病型に特徴的な自己抗体が検出され、その結果、意識障害や運動障害などの神経症状が出現します。腫瘍原発巣、神経症候、抗体の種類の間に比較的一定の関連があり、抗体検出が本症の診断および腫瘍早期発見に有用です。

小細胞肺癌の場合、約3%の症例にランバート・イートン症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome; LEMS)が合併するとの報告があります。

最近は、神経症状を伴う肺癌患者さんには、抗Hu抗体や抗Ri抗体、抗CV2/CRMP5抗体などの抗体測定を行うようになっています。
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Sarcomatoid carcinoma [肺癌に関わるトピックス]

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Srcomatoid carcinoma(肉腫様癌、以下SC)は肺癌の中でも非常に稀なタイプの癌で、頻度は肺癌の0.1~1%程度と言われています。

SCといっても、WHO分類では以下のように更に細かく分類されています。

多形、肉腫あるいは肉腫成分を含む癌(肺癌取扱い規約第7版より)
 1) 紡錘細胞または巨細胞を含む癌
  a) 多形癌
  b) 紡錘細胞癌
  c) 巨細胞癌
 2) 癌肉腫
 3) 肺芽腫
 4) その他

希少疾患ゆえに、詳細なデータも乏しく、SCに対する治療の確立もなされていないことから、非小細胞肺癌と同様に扱われて治療が行われることが多い。。

・肺肉腫様癌は肉腫様成分を10%以上含む非小細胞肺癌で、多形癌、紡錘細胞癌、巨細胞癌、
癌肉腫、肺芽腫の5種類に分類されている。

・男性、高齢者、喫煙者に多い。
 Zehani らの報告では平均年齢62.9歳、男性が9割弱、多形癌が多い。治療を行っても再発率が高く、予後は不良である(Ann Pathol. 2014; 34(2):124-9.)

・1年生存率45%、5年生存率20%との報告もある(Huang et al. World Journal of Surgical Oncology. 2013;11:252.)

・化学療法の中でもタキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル等)抗がん剤を含むレジメンが奏効する可能性が示唆されている(症例報告レベル)。

・EGFR遺伝子陽性例はほとんどない。(Italiano et al. Int J Cancer. 2009;125(10):2479-82.)

SCの中でもheterogeneityがあると思われますので、一括りにした治療戦略は難しいかもしれません。




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はじめまして

肺がん診療に関わる者として肺がんの最新のトピックスを中心に役立つ
情報を提供できるようなブログにしたいと思います。
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どうぞよろしくお願いいたします。
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